「AI 事業に難易度ってあるの?」AI 事業の難易度を 10 段階で分類してみた
エンジニアの又川です。
突然ですが、皆さんの会社で「うちも AI 事業やろう!」みたいな話、出ていませんか? そして、その「AI 事業」の中身が AI レコメンド だったり、画像 AI 査定 だったり、需要予測 AI だったりすると、なんとなく胸騒ぎがしてくる人もいるのではないでしょうか。
「それ、2024 年以前の AI でも普通にできていたやつでは…?」
実はこの胸騒ぎ、結構正しい感覚です。AI と一口に言っても、2024 年以前の AI 技術でも普通に作れたもの と、2025 年以降の Reasoning モデル時代になって初めて成立する体験 はまったくの別物で、事業としての価値も将来性も大きく変わってきます。
そこでこの記事では、AI 事業の難易度 を 1〜10 の 10 段階で分類してみました。Spotify の AI DJ を基準点として置き、そこから上はどんな世界なのか、下はどんな世界なのか、を整理していきます。自分の会社の AI 事業がどのレベルにあるのかを測る物差しとして使ってもらえれば嬉しいです。

基準点:Spotify AI DJ = レベル 6
まず物差しの基準点を決めましょう。
Spotify AI DJ という機能をご存知でしょうか(*1)。2023 年 2 月に英語圏でリリースされたこの機能は、ラジオ DJ が自然に会話しながらアーティスト・曲の説明をしつつ、ユーザの好みに合わせて曲をかけてくれる というものです。
ただ、リリース当初の AI DJ は ユーザに対して一方的に話しかけてくる だけの機能でした。そこから徐々にアップデートを重ね、2025 年 5 月 に 音声リクエスト機能 が追加されて(*2)、「夜のドライブ向けにして」のように話しかけると AI DJ が応えてくれるようになりました。さらに 2025 年 10 月 にはテキストリクエスト・スペイン語対応も追加され(*3)、双方向の対話 AI へと進化しています。日本でも 2026 年 3 月 から提供が始まりました(*4)。
「これ AI レコメンドと何が違うの?」と思った方、鋭いですね。確かに「ユーザの好みに合わせて曲を選ぶ」だけなら、Spotify は 2010 年代から Discover Weekly などで既にやっています。しかし 2025 年版の AI DJ が新しいのは以下のような点です。
- 自然な会話: 「君が最近聞いてる 90 年代のヒップホップを掘り下げてみようか」みたいな、ちゃんと会話として成立する語りかけ
- 個別の関係性: ユーザ一人ひとりに合わせた口調・話題の選び方
- 双方向のやり取り: 「夜のドライブ向けにして」と話しかけると応えてくれる
これは 「自然言語による双方向対話」「長期文脈の保持」「個別関係性の構築」 の 3 つが揃って初めて成立する体験です。2024 年以前の AI ではどれも実用レベルで成立せず、LLM(大規模言語モデル)の登場が前提 の新体験と言えます。
この 2025 年 5 月以降の AI DJ を レベル 6 に置きます。「2024 年以前は無理だったが、2025 年の汎用 LLM で普通に実装できるライン」というイメージです。逆に言うと、ローンチ当初(2023 年)の一方通行の AI DJ はせいぜい L3-L4 で、双方向対話が乗って初めて L6 級になった、という見方もできます。
難易度の全体マップ
10 段階を一気に俯瞰するとこんな感じです。
| バッジ | レベル | 内容 | 事業として |
|---|---|---|---|
| ✨ | L8〜10 | Reasoning エージェント時代の新事業 | 本命(推奨) |
| ⭐ | L6〜7 | LLM ネイティブな新体験 | 推奨 |
| L4〜5 | LLM × RAG の業務支援 | 補完(必要なら) | |
| 🕰️ | L1〜3 | 2024 年以前の延長線 | 今からは厳しい |
ここからは各レベルを具体例とともに見ていきます。下から行きましょう。
🕰️ L1〜3:2024 年以前にもうあったやつ
このゾーンは率直に言って 「事業として始めるには遅すぎる」 領域です。
なぜかと言うと、ここに分類されるものは 2024 年以前のモデルでも普通に動いていた からです。レコメンド・パーソナライズ・マッチング・需要予測・画像査定…思いつくものを並べていきますね。
L1〜L2 の例
| 事業名 | 業界 | 詳細 |
|---|---|---|
| VOD × AI レコメンド | メディア・エンタメ(放送・映像) | Netflix が 2000 年代から運用、2010 年代半ばで視聴の 8 割を駆動 |
| 音楽 × AI レコメンド | メディア・エンタメ(音楽・ライブ) | Spotify が Discover Weekly を 2015 年から運用 |
| 食品サブスク × レコメンド | 製造業(食品・飲料) | snaq.me が 2016 年からサブスク運用 |
| 3D 試着・サイズレコメンド | 製造業(繊維・衣料) | ZOZOSUIT のサイズ計測は 2017 年、3D バーチャル試着の実証は 2022 年から |
| 建機の遠隔監視 × 予知保全 | 製造業(機械) | コマツ KOMTRAX が 1998 年から開発、2001 年から標準装備化 |
| 画像 AI 査定(中古品・スクラップなど) | 流通・小売・卸売 | Vision モデル中心の枯れた技術 |
| 需要予測 × 製造現場連動 | 製造業(食品・飲料) | 2010 年代後半から普通に実装 |
L3 の例
| 事業名 | 業界 | 詳細 |
|---|---|---|
| 5G × IoT × エッジ AI 産業ソリューション | 情報通信・IT(通信) | 技術要素は既存のものの組み合わせ |
| ウェアラブル × 健康アプリ × 個別アドバイス | 製造業(繊維・衣料) | Garmin 等の発展形 |
| AI スタイリスト × アパレルサブスク | 製造業(繊維・衣料) | airCloset が 2015 年から稼働、AI 支援はあるが大半は人スタイリスト + データ分析 |
これらが悪い技術というわけではありません。ちゃんと作ればちゃんと売れます。ただ、新規事業として「AI 活用」を看板にするには、もう競合が多すぎるのです。Netflix・Spotify・コマツ・ZOZO に今から正面から挑むのは、AI とは別の次元の戦いになります。
もし自社の AI 事業候補がここに該当するなら、「これは AI 事業というより、AI を組み込んだ既存事業の改善である」 と捉え直し、事業の打ち出し方を再検討するのが現実的だと思います。
L4〜5:LLM × RAG の業務支援
ここからが「LLM 時代以降のもの」になります。
L4〜5 は、GPT-4 や Claude 3 級の汎用 LLM を使って、社内文書を読ませて質問応答させたり、定型的な業務オペレーションを自動化したりするレイヤーです。
| 事業名 | 業界 | 詳細 |
|---|---|---|
| AI コンシェルジュ × 契約プラン最適化アプリ | 情報通信・IT(通信) | ユーザの利用状況を読み取ってプラン提案 |
| 広告配信 × LLM 最適化 | 情報通信・IT(インターネットサービス) | クリエイティブ生成や入札ロジックに LLM を組み込む |
| データクリーンルーム × AI 突合 | 情報通信・IT(データ・AI) | 企業間データを安全に突き合わせる |
| 既存業務ソフト × AI 機能アタッチ | 情報通信・IT(ソフトウェア) | Excel や基幹システムに LLM 機能を後付け |
この層は 「役に立つけど、それだけで事業の柱にはなりにくい」 領域です。LLM の API を呼ぶだけで成立する機能が多く、参入障壁も低めです。だから「メイン事業の補完」「既存サービスの強化」 として組み込むのには向いていますが、ここを メインの売り にするのは厳しいかもしれません。
⭐ L6〜7:LLM ネイティブな新体験
さて、ここからが「2025 年以降の新事業」の本命ゾーンに入っていきます。
L6 が Spotify AI DJ 級、L7 はそこから一歩踏み込んで 「業界特化」「長期記憶」「個別関係性」 を深めた領域です。
L6 の例
| 事業名 | 業界 | 詳細 |
|---|---|---|
| 既存 SaaS の AI ネイティブ化伴走 | 情報通信・IT(ソフトウェア) | 単に AI ボタンを追加するのではなく、業務フロー自体を AI 前提で再設計する |
| クリエイター × AI 自動制作番組プラットフォーム | 情報通信・IT(インターネットサービス) | 1 人の発信者が AI スタジオで毎日番組を作る |
| 大手 SI 案件への AI Agent 連携 PoC | 情報通信・IT(ITサービス) | 既存 SI に Reasoning モデルベースのエージェントを差し込む |
| オンプレ Reasoning モデル運用基盤 | 情報通信・IT(データ・AI) | 機微データを離さずに AI を活かす |
L7 の例
| 事業名 | 業界 | 詳細 |
|---|---|---|
| MNO/MVNO 横断 AI ライフタイムサポート | 情報通信・IT(通信) | 通信会社が変わっても引き継がれる AI 執事。長期記憶 × プライバシ × 個別関係性 |
| AI 参加者 × 人間参加者 ハイブリッドコミュニティ | 情報通信・IT(インターネットサービス) | 推し AI と人間が同居して成立する SNS |
| 業界特化 AI エージェント開発 | 情報通信・IT(データ・AI) | 金融・医療・製造の業務をエージェントが回す |
| データ分析 × Reasoning データジャーナリスト | 情報通信・IT(データ・AI) | ダッシュボードを読まずに、Reasoning モデルに質問する |
このゾーンの共通項は LLM が出るまでは構想すら成立しなかった という点です。例えば 通信会社が変わっても引き継がれる AI 執事 は、長期記憶を維持しつつ自然な対話ができる LLM があって初めて成立します。推し AI と人間が同居する SNS も同様です。
L6〜7 は 「言われてみればやりたいけど、誰も実装できなかった体験」 を狙うレイヤーで、新規事業として最も「夢がある」ゾーンと言えます。
✨ L8〜10:Reasoning エージェント時代
そして 2026 年現在の最前線、Reasoning エージェント時代 のゾーンです。
2025 年 12 月に GPT-1 から GPT-5.2 まで: LLM の特殊トークン徹底解 説【2025年12月最新】 でも紹介したように、2024 年 9 月の OpenAI o1 以降、LLM は「思考トークン」を使って深く考えられるようになりました。これにより、それまで「人間が考えて判断していた」業務領域を AI が自律的に回せるようになりつつあります。
L8 以上はこの 「Reasoning モデルが自律的に複数ステップ思考し、業務を回す体験」 が前提です。
L8 の例
| 事業名 | 業界 | 詳細 |
|---|---|---|
| 全社 AI モデル SLO/エラーバジェット運用 | 全業界共通基盤 | AI 品質を SRE 流に運用する全社基盤 |
| マルチクラウド × マルチプロバイダ AI 統合 SRE 代行 | 全業界共通基盤 | AWS/GCP/Azure × Claude/GPT/Gemini を横断する 24/7 SRE |
| 全社 AI 利用統合監視・シャドー AI 検知 | 全業界共通基盤 | 社員が勝手に使う AI を可視化して制御する DLP/SIEM の進化系 |
| 業界規制 × Reasoning 継続監視・影響シミュレータ | 全業界共通基盤 | 毎月の法改正を Reasoning モデルが常時把握 |
| 生成 AI 出力 × 知財リスク評価エージェント | 全業界共通基盤 | リリース前に Reasoning モデルが著作権・特許・商標をチェック |
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